第7回研究大会・総会報告 〈シンポジウム〉
シンポジウムは山本章雄氏の司会によって進められた。シンポジストは?日本サッカー協会の山口隆文氏、日本バレーボール協会の西田守氏、潟Xポーツ・ナビゲーションの本間浩輔氏の3氏であった。
山口氏には日本サッカーの一貫指導システムについて、そのコンセプトや実施内容を、西田氏には日本バレーボールの今までの強化策と今後の課題について、本間氏には経営的ビジョンからみた現在の日本バレーボールについて、それぞれの立場から話をしていただいた。
(編集委員 水澤克子)
日本サッカーの一貫指導システム
山口隆文((財)日本サッカー協会)
サッカーの日本代表は'98年に初めてワールドカップに出場した。3試合戦い3試合とも負けた。これでは、日本は常時ワールドカップに出場することができない。
そこで、世界の強国に肩を並べるためにはどういうことをやらなくてはいけないのか、長期的な戦略を立てた(図1)。
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長期的強化ビジョンの柱 世界大会をスタンダードとした強化 三位一体の強化策 代表チーム ユース育成 指導者養成 知のマネージメント 暗黙知 → 形式知 個人知 → 組織知 図1 長期的強化ビジョンの柱 |
三つの柱があるが、その一つが、『世界大会をスタンダードとした強化』である。
二つ目の柱が『三位一体の強化策』である。
『強化』は代表チームを集めて行えばよいというものではなく、『ユースの育成』、『指導者養成』が一体となって進んでいかない限り、世界と肩を並べることはできない。
三つ目の柱が『知のマネージメント』である。
『知のマネージメント』というのは、まず『暗黙知』、つまりおぼろげながらわかっていたことを形式化する。誰でもが分かるものにしていくということである。
さらに、個人がわかっていること(個人知)、例えば代表チームの監督のトルシエがわかっていること、これを個人のモノだけにはしない、または今回ワールドカップ
に出る(代表選手)20人だけのモノにしない。それを、組織知にしなくてはいけない。これをマネージメントしなくてはいけないということである。
この三つの柱、『世界大会をスタンダードとした強化』『三位一体の強化策』『知のマネージメント』をもって、長期的戦略をたて、実行している。
『世界大会をスタンダードとした強化策の推進』について説明する。
サッカーの場合はワールドカップ、U-23の大会であるオリンピック、U-20の世界大会、U-17の世界大会がある。もちろん、女子の世界でもU-19の世界大会、オリンピック、ワールドカップがある。
これらの試合を分析、評価する。その結果から、日本と世界の差はどこにあるのか、日本のよさはどこにあるのか、足りない点はどこにあるのか、課題を抽出し、それを克服するためのシナリオ(例えばトレーニング方法またはコーチング方法)を作成していく。
世界大会をスタンダードとした強化策の推進
それを実際に現場に落として、その課題を克服していき、次の大会に臨む、というサイクルである。
このサイクルを日本全体として取り組めるシステムを構築している。
今、アジアの中では、日本はある程度の力をつけてきた。ところが、フランス(前回ワールドカップ優勝国)、ヨーロッパ、南米諸国(ブラジル、アルゼンチンなど)と、やはりまだ差がある。
では、何が差なのか、ということを我々は知らなくてはならない。これを常に我々は念頭におきながらトレーニングを繰り返している。
たとえば'98フランスワールドカップでなぜ負けたのか?シュートが入らなかった。ゴールにボールが飛んだパーセンテージは32カ国中最下位、決定率も最下位であった。
なぜ点が入らないかということを分析し、点を入れるためには、どういうトレーニングをしたらいいのか、という課題克服のためのシナリオを作成した。
ではシナリオをつくった後どこでそれを強化するのか。
課題には短期的な課題も、長期的な課題もある。短期的な課題については、当然ナショナルチームでやっていく。ナショナルチームというのは、ワールドカップを控えているトルシエ・ジャパンだけではなく、U-20やU-17のナショナルチーム(代表チーム)も、短期的な課題について強化をしていく。
さらに先程申し上げたようにユースのデベロップメント(Youth development)、ユースの強化をやっていく。 そして、コーチング・エデュケーション(Coaching education)、指導者養成をもおこなう。何をやらなくてはいけないかということを、末端にいたる指導者まで知らなくてはいけない。ということで、この三位一体の強化策に取り組んでいる。
三つ目の柱がKnowledge managementである。暗黙知を形式知に変える、個人知を組織知に変える、そういったマネジメント、知の組織化を我々は意識的に行っている。
今回、韓国と日本で行われるワールドカップでは、テクニカル・スタッフを、韓国に5人派遣する。日本に5人派遣して、計10人で分析をする。1試合に対して二人が行って90分のゲームを分析し、それをすぐシートに落とし、それを本部に送り、本部で待っている(分析担当)メンバーがすぐビデオ編集を行う。それを繰り返しながら、全国に送るレポートとビデオを作成する計画を立てている。
いわゆる課題の抽出とそのビジュアル化をしていくのである。それ(課題)を言葉で言っても分からないことがある。映像によって見せたり、もしくは文字で読むことによって初めて分かる場合もある。そういうビジュアル化をやっていく。
それをユース育成の場であるトレセン活動や、指導者養成活動へフィードバックする。
2+2=4、4+4=8であるが、我々は、今までまったく違った方向を向いていた指導者を一つの方向にむけていく作業をしている。ベクトルの共有化を図るということで先程のテキストやビデオが有効に使われるということである。指導者一人一人の力をより大きな力として結集させるために我々サッカー協会はあると考えている。
『三位一体の強化策』『世界大会をスタンダードとした強化策』、そして『知のマネジメント』、これが、日本サッカー協会技術委員会が立てた、世界に肩を並べるための長期的な戦略である。
そのなかの一つの柱、指導者養成システムについて説明する。
指導者養成講習会は日本体育協会とタイアップして行っている。
少年・少女とS級については、体協とは関係なくやっている日本サッカー協会独自の講習会である。
目安となる指導対象と養成人数は図6の通りである。(図6)。
S級はJリーグの監督になるための資格である。プロフェッショナルプレイヤーに対する指導者になるための資格であり、日本の核となる人材を育てるための資格で、講習会は2年に一回開催される。
| 内容と共にインストラクター養成が非常に重要である S級 For Professional Players 日本の核となる人材 2年に1回開催 B級 For Youth Players (all amateur teams) 年2コース 約60人養成 C級 For Youth Players (13-18 yrs.) 年9コース 約280人養成 地域C級・準指 For Golden Age Players (8-12yrs.) 年間 約50コース 約1000人養成 少年少女 For Boys & Girls (under-12) 年間 約70コース 約1400人養成 図6 目安となる指導対象と養成人数 |
B級は体育協会のB級と同じである。日本サッカー協会と日本体育協会がタイアップして行っているもので、年2コース行っている。
C級では年9コース約280人を養成する。
そして準指導員のコースがある。これは体協が行う養成講習の共通教科かつ専門教科をのぞいたものを中心に行う。サッカー協会が行う、サッカーの勉強を行うものである。42時間の講習で約1200人を養成する。開催の主催は各都道府県サッカー協会である。
最後に少年・少女であるが、これはFor Boys & Girlsということで12才以下の少年・少女の指導者を対象に年間約70コース開催され、各都道府県のサッカー協会が主催である。これは、自分の息子や娘がサッカーをはじめた。お父さんは野球をやっていたのだが、頼まれてコーチをやることになった。では、サッカーを少し勉強しなくてはいけないね、ということで、計10時間、土日で資格がとれるコースである。やってはいけない指導、やって欲しい指導、それを、ここでしっかりと勉強してもらう。2002年度からは、指導者がこの少年少女の指導資格を持たないと、その少年団のサッカー協会への登録は認めないことになった。
一番大切な小学校年代に、間違った指導をしてはいけない、スポーツ嫌いにしてはいけない、サッカー嫌いにしてはいけないということで、資格取得の義務化を図っている。
内容と共にインストラクター養成が非常に重要である。去年、少年少女からS級までの全てのカリキュラムを、カリキュラム検討プロジェクトを立ち上げて1年間かけて全部つくり直した。
世界と肩を並べるためには、小学校年代で何をやらなくてはいけないか、そして、中学校年代や高校年代で何をやらなくてはいけないか、そしてプロフェッショナルにはどういうコーチングが必要なのか、という方法論を全部一貫的に整理した。
各年代で何をやらなくてはいけないか、発育発達に応じて何をやらなくてはいけないかということを整理してそれぞれの指導者に伝えていくということである。
すなわち、我々日本サッカー協会は『自立期においていかに大きく成長させるかを第一の目的とする』。
たとえば、少年団で全国大会で優勝することは目的ではない。大会というのは手段であって目的ではない。試合で勝つことはあくまで手段であって目的ではない。その手段を使って、目的である『子供達を成長させる』のだということを徹底したいと考えている。
バーンアウト症候群やオーバーユース症候群で心身共に壊すようなことが多々見られる。指導者は後の発育・発達の妨げになるようなことを、取り除かなくてはならない。そういう考え方をしなくてはいけないと講習会では指導している。
人間の器官・機能の発達は一様ではない。神経系は12才で大人と同じようにほぼ100%完成される。ということは小学生年代には、技術を修得させることが最も効率がよいということである。
そのときに、がんがん走らせたりしても何にもならない、いや何にもならないということはない、確かにそのときは強くなるが、それは後の財産とはならない。
最も吸収しやすいときに、その吸収しやすい課題を与えてやるということを考えなくてはならない。
日本サッカー協会では長期的視野に立った選手の育成を図っている。小学校年代のコーチは、その子が20歳になったときにピーク・パフォーマンスを迎えるためには、小学校年代に何をしなくてはいけないのかということを常に考えてやってください、ということを講習会で伝えている。
つまり、年代毎の発育発達を全てわかった上で、コーチはコーチングをしなくてはいけない。ということを、テキストやビデオを使って講習会で伝えている。
一貫指導とは、たとえば、ガンバ大阪とか、セレッソ大阪とかがあって、そこに育成システムがあるからできるものではない。
我々は、例えば、大阪で育った小学生が北海道に移動しても、北海道でも同じ一貫指導の考え方で指導者がやってくれれば、一貫指導は可能なんだ、という考え方をもっている。
すなわち、一貫指導とは、システムではなく、考え方、コンセプトであると考えている。
1.日本サッカー強会全体の発展を最終目標に、スポーツ活動の文化的価値を
認識し、全ての愛好者に開かれ、様々な指向に応えるべく、普及・
育成・強化に当たる。
2.全ての選手にプレーできる機会を提供することを原則とし、個々の
選手の能力に応じてサッカーを楽しめる環境、能力に応じた指導を
受けられるように整備していく。
3.ユース年代の育成・強化は、長期的視野に基づき「目先の勝利」よりも
発育発達を考慮した「最終的な勝利」すなわち、完成期におけるピーク
パフォーマンス達成を重視する。そのためには、選手にとって障害と
なることは取り除いていかなくてはならない。
4.単一組織内にとどまらず、たとえチームが変わろうとも、選手の成長を
メインの軸とした一貫指導が達成されるよう、日本全体として取り
組んでいく。
5.これらを実現するために、種別、組織の枠を越えて、ユース部門に携わる
全てのものが協力体制を築き、他のスポーツ競技団体、関係組織にも
積極的な働きかけをしながらスポーツ全体の発展に寄与する。
システムの構築は当然大事である。しかし、そこでやっている指導者が発育発達に合わせた指導をやってくれなかったら、それ(システム)はハード面であって、ソフトが揃っていないということになる。
一貫指導で重要なのは、システムを作り上げると同時に、それをやる指導者がこの考え方、発育発達を考えて指導するという考え方をしっかり持つことである。発育・発達を考えて指導する。最も吸収しやすい時期にその課題を与える、ということを指導者は知らなくてはいけない。
指導者が、目先の勝利に目を奪われて将来の大きな成長を阻害してはならない。大会は手段であって目的ではないということを肝に命じなくてはいけない。もちろん、指導者も子供も、全力を尽くして勝とうとする。しかし、そこで指導者が考えなくてはいけないのは、そこに、オーバーコーチングやオーバーティーチングをしてはいけない、ということである。
次にYouth Developmentについて解説する。
代表を集めてから、いざ強化、では手後れである。世界大会から得られた強化指針を各クラブにおいて実践してもらわなくてはいけない。その中から能力の高い選手をピックアップしていく。そして、より高いレベルの環境や、指導を提供していく、ということをする。
例えばU-14からU-21までのすべてのカテゴリーの代表をつくって、海外に遠征させる。実際に、より高いレベルの環境・指導を提供していこう、ということがトレセン・システムの強化である。
現在、各クラブがあり、地区トレセンがあり、県トレセンがある。地域トレセンがあってナショナルトレセンがある。そして、日本サッカー協会の代表チームができる。トレセンで選手を発掘してより高いレベルの育成・強化をし、ナショナルチームを強化して、各カテゴリーの世界大会に出る。
そして、世界大会の分析・評価を強化指針にまとめて、ナショナルトレセンから地域トレセンへ、地域トレセンから県トレセン、県から地区へ、そして各クラブに何をしなくてはいけないかということを、つまり育成ビジョンの伝達をしていく。いわゆる双方向の流れを持つトレセンがある
1998年のワールドカップの優勝国フランスの監督、エメ・ジャケ氏が、1999年に来日した際、我々に残してくれた言葉を紹介する。
「フランスのワールドカップでの成功は30年間にわたる努力の成果である。」
今、日本型のシステムを紹介した。我々もまだ模索中であるが、フランスは、30年前にフランス型のシステムをつくって実行してきたのである。
「私は、今の優勝監督であるけれども、それは私の力ではない。それは、30年間にわたる努力の成果が、たまたま私が監督であるときに、花開いただけである」という言葉もあった。さらに以下の言葉も紹介する。
「一つの国がサッカーで成功するにはユースの育成と指導者の育成が鍵である。」
日本サッカー協会が今考え、実行していることを話題として提供させていただいた。
一貫指導システムの構築およびその必要性について
西田 守((財)日本バレーボール協会)
1)日本バレーボール協会の強化策の歴史
東京オリンピックで全日本のナショナルチームは、女子は金メダル、男子は銅メダルという成績を残した。これを機に、日本全国でバレーボール人気が高まり、小学生から家庭婦人まで、幅広い層に受け入れられるようになった。
東京オリンピック以降も、メキシコ、ミュンヘン、モントリオールとメダルをとり続け、いわば栄光の歴史を築いてきたと言える。しかし、その間、協会の中で、その世界のトップをキープするにはどのようにしたらよいか、という研究が行われてきたかどうかは疑問がある。過去の栄光に酔いしれていた日本バレーボール協会、とも言えるかもしれない。
その結果、アトランタオリンピックには男子が出場できず、2000年のシドニーオリンピックには男女共出場することができないようになってしまった。20年前から考えると、オリンピックに関しては、日本のバレー会は大変な危機に瀕しているといってよい。
日本バレーボール協会では、今後日本バレーボール界がどのように努力すれば、再びオリンピックにコマを進めて世界のトップに返り咲くのかということを、ようやく模索しはじめた段階である。
では、東京オリンピック以降、どのような強化がなされてきたのか。
東京オリンピックの女子チームは大松博文氏、ミュンヘンオリンピックの男子チームは松平康隆氏、モントリオールの女子チームでは山田重雄氏が監督として、それぞれ、ほぼ単独チーム編成でナショナルチームを作り、強化を進めた。ミュンヘンオリンピックの男子チームは東京オリンピック以降、単独チームの8年計画で強化された。日本のナショナルチームは、一人の監督による、単独チームの強化でその成果を上げたといえる。
中学、高校等のジュニアについては、学校体育が主体となって強化が行われた。
インターハイ、国体、春の選抜等の高校生の大会だけではなく、中学生対象には14、5年前からJOCカップ、いわゆるさわやか杯ができあがった。国内の試合だけではなく、ジュニアのうちに国際経験を積ませようと、日韓戦や、環太平洋選手権の他、オーストラリアや、タイ、中国等にも遠征をした。
しかし、これらの強化はあくまで、中学生は中学生だけで、高校生は高校生で、ナショナルチームはナショナルチームでの強化、いわゆる分団型、横の強化であって、それぞれの強化が縦につながってはいなかったし、現在でもつながってはいない。
ナショナルチームのメンバーはほとんどがVリーグ(実業団)の選手であり、Vリーグにおけるチームの成績がナショナルチームのメンバーの選考に大きく関わってくる。ナショナルチームのメンバーの選考、あるいはナショナルチームのコーチングスタッフの選考が本当にシビアに行われているか、というと疑問視しなくてはいけない点もあるのではないかと考えられる。
昔は一人の監督が単独チームを強化して世界に伍して戦うことができ、それなりの成績をおさめたが、現在ではそれは難しい。そこで、強化策を根本から見直す必要があると、協会は考えはじめた。
まず、選手の発掘と養成のシステム、そして指導者養成システムの立ち上げを考えている。しかし、現時点(2002年3月)では明確な形はできていない。
2)指導者の養成
バレーボールの指導者の資格制度については、日本体育協会とタイアップして、かなり早い時期から取り入れているが、ライセンス制度には拘束力がなかった。そのため、公的な指導者資格を持った指導者が目減りしている。
選手を育てていく場合には、その選手の資質をよく知って、その発育・発達段階に合わせた指導をし、サポートしていかなくてはいけない。しかし、指導者にその能力がなければ、優れた能力を持った子供達がつぶれてしまう。あるいは、優れた能力のある子供が発掘されないまま終わってしまう。
そこで、指導者養成事業をしっかりしなくてはいけないと考え様々な検討をした。その結果、平成16年度には、全国大会に出る小学校、中学校、高等学校、大学、実業団、クラブ連盟のチームも、家庭婦人のチームも、そのチームの指導者は、公的資格を持たなくてはいけない、ということにした。完全実施ではないが、まず、指導者資格ということでは第一歩を踏み出そうとしているところである。
3)選手育成と強化
選手の発掘に関しては、各都道府県で発掘委員をきめ、選手の発掘事業をはじめたところである。その選手の育成は、各県あるいは地域でおこなっていく方針である。具体的な育成の場がどこになるか、また、どのような方法で、日本協会と地域境界が連係していくかは、模索している最中である。
(選手の育成と強化は)強化委員会だけの問題ではなく、日本バレーボール全体の問題と考え、仕組みから変えていかなくてはならないと考えている。
Vリーグや全日本選手権(黒鷲旗)の間は、国際試合が組まれることはない。ナショナルチームは黒鷲旗が終了してからでないと組めない。それは、各チームが各チームの利害だけを考えているからではないか?これでは、世界に通用するナショナルチームは作れないのではないか?
強化策を一本に絞り、底辺(小・中学生チーム)からトップアスリート(ナショナルチーム)まで一連の流れを作らなければならない時期である。
また、世界の諸チームとの違いはなにかということについて、技術・戦術等について、きめ細かに分析・研究をしなくてはいけない。何をすれば韓国に勝ち、中国に勝ち、世界に出ていけるのか、ということを真剣に各指導者、日本協会が中心になってやっていかなくては世界との溝は深まるばかりであろう。
4)現在の日本バレーボール
いま、日本の指導者というのはVリーグも含めて、自分のチームの勝利のみを考えている。中学は中学、高校は高校、大学は大学、実業団は実業団・・それぞれのレベルで一番になればよい・・と。その発想で、いわゆる分団型の強化がなされてきた。それが日本全体の強化になっていただろうか?短期、中期、長期の強化策をきちんと立て、選手のどの段階で、どんな強化をしていかなくてはいけないのか、それを考えていかなくてはいけない。残念ながら今、日本バレーボール協会では、その流れはできていない。
強化委員長がシニアも、ジュニアも、ユースも統括したほうがよいのではないかと考えている。ナショナルチームの目でみて、世界とくらべてここが弱点で課題である、だから、(シニアにつながるべき)ジュニア、ユースの世代ではこういう指導をして欲しい、ということを要求できるようにするべきではないか。世界のナショナルチームはこんな技術があって、こんな戦術、戦略を用いてくる、ということをジュニア、ユースの指導に落とせるようにしなくてはいけないのではないか。そういうシステムを作ろうとしている。
作ったシステムをきちんと機能させるようにするのが、日本協会の役目であるし、その反省は真摯に行わなくてはならないだろう。
日本協会やこのバレーボール学会だけでなく、全国のバレーボール関係者が、もっと真剣に、選手・指導者の育成・養成事業に取り組まなくては、日本バレーボールの再生はできないと感じている。
経営的視点からみたバレーボールの改革のためのヒント
本間浩輔((株)スポーツナビゲーション)
バレーボールのクラブチームの登録数は生物学的にいうと三桁を切っているのではないか?このままでは、絶滅するのではないか。それくらい危機的状況にあるというところから考えていかないと、おそらくバレーボールは変わらないんじゃないか。少子化で、スポーツをする人の絶対数が減っている、絶滅するかもしれないというくらいの意識がないと、バレーボールは変われないんじゃないか。
バレーボールの問題は何かというを見つけていくのが、バレーボール学会であり、日本バレーボール協会の最も重要な役割ではないか。
Vリーグは単独会計で、年間1億から3億の黒字である。そのお金が全日本の強化のための費用になっている。では、その1億から3億のお金はどこからきているのか?それは各会場で儲けたチケット費用が一億二億になっているわけではなくて、各開催地が払っている多額の分担金と、Vリーグに来ているチームの参加料である。
Vリーグの黒字を支えているのは、実は地方の協会が払っている分担金である。これがJVAに上納されている。そういう仕組みになっている。
(サッカーの)Jリーグはサッカー協会がテレビ局やスポンサーと交渉して、お金をとってくる。そしてそれをチームに分配する。競争力を持たないサッカーチームが単独でテレビ局やスポンサーになって欲しい企業に行って交渉しても、お金は取れない。そこで、Jリーグでは参加チームがまとまって一つのリーグ(団体)となって交渉し、どーんと大きなお金をとって、それを各チームに分配する。
片やVリーグでは自分達で参加料を払っている。払ったお金は返ってこない。そして一生懸命稼いだお金というのは、いつの間にかVリーグを通じてJVAにはいる。JVAはそれを日本代表の選手強化資金に使っている。これは、ある意味正しいかな、とは思うが、社会環境がこれだけ変化していると、この状況は維持できない。この辺りにも問題があるのではないか?
Vリーグのチームは、選手強化のために、勝つためにものすごいお金を使っている。選手も一生懸命頑張る。ところが、そうやってスタジアムや体育館を満員にしても、テレビがたくさん来ても、視聴率を上げても、チームにはまったくお金は入ってこない。
Vリーグ(旧日本リーグ)のチームを持っている企業は日本のトップ企業です。14、5年前であれば、チーム強化のためにたとえ3億遣っても、それ以上の利益があったため、節税対策としてもそれはよかった。ところが、景気がどんどんどんどんわるくなってきている。リストラをするか、チームを維持するかの局面に立っている。
そういう状況にある企業が持っているチームがVリーグを支え、日本の競技力を支えている。
もっと、この部分に明確に視点を当てていかないといけなんじゃないだろうか。
堺ブレイザーズの仕事に関わっていた関係で、ブレイザーズに関連して、バレーボールは人気があるんだ、捨てたもんじゃないなと思った話を紹介する。
2001年6月の話である。堺ブレイザーズがアルゼンチンをよんで練習試合をした。6月のある火曜日に、堺の1500人くらい入る体育館でアルゼンチンと試合をすることになった。
小さな体育館でやる試合であるので、チケットぴあなどに情報は載らない。宣伝といえば、数カ所にポスターを貼れるだけだった。
試合当日は台風なみの大雨で、平日の夜であるにも関わらず、会場には1300人の観客がはいった。悪天候の、平日の火曜日6時、試合をするのは堺ブレイザーズで全日本選手はいない、そういう試合で1300人の集客数があった。これを考えてみるとバレーボールは、実は、まだまだ人気があるのではないかと思う。
様々なスポーツの観戦者の調査で、平日の試合と土曜日の試合を比較すると、2倍から3倍の観客数の差がある。それを考えると、火曜日のバレーボールの試合で1300人くらいの客が入ったということは、これは土日に換算するとかなりの人数が入るんじゃないかと考えられる。いまのVリーグの会場を満員にするぐらいのことは、比較的簡単なのではないかと考えられる。
では、なぜVリーグにお客さんが入らないのか?それは、Vリーグのマーケティングが怠慢であるからではないか?
読売ジャイアンツのチケット販売には、戦略がねられている。一般販売で半分くらいしか出さないという。読売のチケットの販売の関係者に聞くと「喉を乾かしておくのが大原則なんだ」という。天下の東京読売巨人軍でさえ、そういうマーケティングを一生懸命やっている。
Vリーグではそういう(マーケティングの)意味では怠慢だったと思う。会場を満員にするという努力をしなかったがためにどんどん人が離れていってしまったのではないか。
最後に、ではどうすればいいのか、ということである。
まず一つは現状をよく調べることである。これだけ情報公開が求められる時代であるから、一般の方も、Vリーグの運営、JVAのお金の使い方、日本代表の育て方についても、よく調べて、情報公開を求めて、そして皆がパワーをもって、日本バレーボール協会なりVリーグなり、各チームに働きかけていく、ということが重要ではないか。
バレーボール協会は誰のためにあるのだろうか?企業は社員のために、株主のためにある、という明確な位置付けがある。したがって企業は社員のため、株主のためにに経営をしなければならない。では、日本バレーボール協会、Vリーグは誰のためにあるのか?誰のために活動しているのだろうか?
色々な考え方があるが、バレーボール愛好者たちが登録料をはじめとして、様々な形でVリーグの運営や協会を支えているとすれば、バレーボール協会は、それらバレーボール愛好者やプレイヤーのためにあるべきだろう。
であれば、バレーボール愛好者、プレイヤーは現状を把握して、パワーを持ってバレーボール協会や、Vリーグに対してものをいう責任と権利があるんじゃないか。ものを言えるようにしなくてはいけないのではないか?
もう一つは、Vリーグのチームのオーナーを集めて、オーナー会議を持ち、オーナー全体でVリーグに対してものを言う仕組みをつくるということである。そうならないとダメなのではないか。ある1チームが、ああだこうだ言ってもVリーグは変わらない。Vリーグは8チームが一つになって、JVAやVリーグの実行委員会に意見し、もっといい形にならないと全員で撤退するぞ、くらいの血判状を持って、やり取りをしなくてはいけない。
日本サッカー協会は若手(40代の人たち)が、日本のサッカーはどうあるべきか、指導はどうあるべきか、トレセンの仕組みはどうあるべきかを、協会の中心になって取り組んでいる。それをよしとするパワーがサッカー協会にはあると思う。
バレーボール協会はどうだろうか?
若い人たちが、ばりばり自分の思ったようにやる、自分の信じたことをすすめていく、そこで指導法をつくっていくというスタンスが、サッカーにはあって、バレーだけとは言わないが、他のスポーツには見られない。それは残念なことだ。
バレーボール協会は、若い人たちの熱意を汲んで、その熱意で動かせるような組織にしていかないと、バレーボールは変わらないのではないかと感じている。
質疑応答
京都橘女子大学 宮内
「山口先生にお伺いしたいと思います。
ナショナルチームの強化方針と、その選手の所属チームの強化方針が違う場合があると思います。バレーボールの場合、ナショナルチームではセッターで使いたい選手が所属チームではアタッカーとして使われると・・。そういう面の理解を求めるために、トレセン制度が始まったと思うのですが、その制度が確立していく上で、所属チームにナショナルチームの方針を理解してもらうという点で御苦労された点、また実際にそういう強化方針の食い違いがあった時には、どのような形で問題を解決していったか、というようなことがあれば、お話していただきたいとおもいます。」
山口
「ユース年代の指導のところでは、我々は基本を徹底しようということをいっています。
基本とは何かというと3つあり、まず一つは戦う姿勢、二つ目が判断の要素、三つ目が技術の要素です。その三つの基本要素を徹底的にユース年代に固めて、それからその本人の持っている個性が発揮されるんだと考えています。これはプレイヤーにも言えますし、指導者にも言えます。
それからその基本の徹底をユース年代で図るということに関していえば、今現在、(選手の)所属チームと代表の強化とはイコールです。ポジションについては、代表にいくと、そのポジションが変わるということはありますけれども、それはそれでその子の将来を見据えた中での一経験ということで捉えています。たとえばセンターフォワードの子がミッドフィルダーをやろうが、デイフェンダーをやろうが、それはそれで一つの経験だろうということです。
それから代表の監督が所属チームの監督さんと緻密に連絡をとっています。たとえば代表の合宿時にその所属の監督さんを招待して実際にトレーニングを見てもらう、ディスカッションをする、または、(代表の)監督が所属チームにいって練習を見る、という、お互いのコミュニケーションが非常に細かくとられています。連絡を密にとるということで、問題解決を図っています。お互いに非常に多く、実際の場に足を運んでコミュニケーションを図っています。それによって、コミュニケーションが生まれ、そして誤解も少なく、円滑にシステムが運営されているのではないかと思います。
もちろん、それは理想的な話で、逆にいえば、そういうコミュニケーションを怠った監督に関しては当然、いろんな問題が起こります。その問題が数年前まで起こっていましたが、いまはユース年代ではきめ細かくやって、問題は少なくなっているのではないかなと思います。」