バレーボール学会・2000年第2回研究集会
「バレーボールとスポーツビジョン」石垣 尚男氏(愛知工業大学)

 平成121112日(日)、2000年度第2回研究集会が、愛知産業大学にて開催された。
 バレーボール学会の研究集会としては、昨年のマクガウン氏の運動学習理論に引き続いての、オンザコートを交えた研究集会で、スポーツビジョンの概要から、パフォーマンスを発揮する中での位置づけ、トレーニング方法、バレーボールの練習の中での取り組みと、現場での指導に有意義な内容であった。



【スポーツビジョンがどのようにパフォーマンスに関わるか】
 スポーツビジョンとはいわゆる視機能、眼の能力であり、ある意味で体格とか、体力と同じように選手の資質として考えることができます。
 体格、体力が優れている選手の方が、バレーボールのパフォーマンスに有利に働くことはいうまでもありません。スポーツビジョン能力も同様にとらえることができるとともに、パフォーマンスを発揮する要因がそれだけではないこともご存じの通りです。
 練習の環境、指導者、チームメイト、コンディショニング、今までの経験等、パフォーマンスに影響を与える要因はたくさんあります。スポーツビジョンもその一つの要因であることを理解するべきです。
 メンタル面の強化とか、体力を向上させることで、パフォーマンスをアップさせるのと同様に、スポーツビジョン、視機能をトレーニングしていくことでパフォーマンスを向上させる可能性を考えています。
 スポーツビジョンとは、「視覚・認知からパフォーマンスアップをはかるコンセプト」で、「眼を測る」「視力矯正」「強化(ビジュアルトレーニング)」「眼の保護」の4つから成り立っています。

 バレーボール選手の眼(視覚・認知力)を測定してみると、レベルの高い選手ほど、いい眼を持っているようです。実業団選手とVリーグの選手を比較しても、Vリーグの中でレベル別に比較しても、レベルの高い選手の方が、ビジョン能力が高い結果を示しました。これは他のスポーツでも同様です。

 大学女子バレー選手の視野の広さをレベル別に比較してみても、レベルの高い選手の方が、視野が広いという結果を示しました。

 また、「見ること」を考えるならば、バレーボール選手の視力矯正を何よりも先に考えなければなりません。中学生の50%、高校生65%以上が視力1.0未満であり、30%が視力0.3未満であるのが実態です。
 視力を矯正しないでプレーをすれば、「(ほんのわずかですが)反応が遅れます」また、「距離感がとれない」「表情が読めない」などのマイナス面が生じます。明るいところなら何とかなりますが、夜、暗い体育館だとどうにもならないことを、私自らが経験しています。
 視力0.5以下というのが、矯正の目安で、矯正手段としては、コンタクトレンズがベストでしょう。選手は目が悪くても、何気なくプレーしているので、指導者が観察、チェックしてあげることが必要です。
 今まで視力矯正をしていなかった選手が、コンタクトレンズを使うようになって、サーブレシーブが上手になった例も少なくありません。最近では使い捨てコンタクトレンズが広まり、落としたり割れたりしても安心して使えるようになっています。

【眼を護る】
 バレーボール中のケガは、足関節捻挫、手指部捻挫で50%以上を占め、眼の怪我はそれほど多くはありません。ただ、眼の怪我は後遺障害が残りますので、起きてしまうと非常に厄介な問題となります。予想しない方向からボールが飛んでこないように、練習環境に配慮が必要です。
 眼の怪我が多い野球などでは、アイガードを使用するケースも見られます。バレーボールで使われている例はほとんど見ませんが、例えば、ブロック時に目をつむってしまうような場合、目を開けたままブロックできる方がパフォーマンスは高いのは、間違いないところで、恐怖心を軽減するのに役に立つ可能性があります。








FIVBwebサイトより参考画像」


 皆さんがたがお知りになりたいのはどのようにトレーニングすればよいのかということだと思います。「見る機能」を高めるためには、入力系、ビジュアルスキルを教えてあげなければなりません。
 入力系とは、視覚とか、認知、つまり見ている状況であり、何を見ているのかということです。そして、何を見ているのかというのは、他の選手と比較しづらいという面を持っています。ジャンプ力とか足の速さなどは、比較しやすく、だからあの選手はすごいという理解につながりますが、「何を見ているのか」というのは、見ている本人しかわからず、場合によっては、そこに差があることすら気がつかない場合が多く、共通のものを見ていると考えがちです。
 これは意識の問題で、視野に入ったものは見る意識があれば、非常に多くの情報があるが、脳に入る情報は注意を向けたものだけだからです。
 パフォーマンスアップを図るためには、どこに注意を向ける必要があるのかというビジュアルスキルを教えなければなりません。




FIVBwebサイトより参考画像」

 指導者がよく口にする、漠然とした「よく見ていけ」では、選手は何をどのように見ればよいのかわからないのです。
 「どこを見ればいいか知っていること」、これもスキルであるという認識が必要です。さらにバレーボールでは、次にどうなるかを予測(読む)し、どうすればいいか(対応する)を考えます。予測のためにどこを見るのかも教える必要があります。

【基本技術の考え方】
 日本のバレーボールでは、伝統的に「形」を重視することが、技術の洗練というとらえかたをします。「形」の重視というのは、いわゆる出力系です。バレーボールでは状況は常に変化します。基本というのは、状況にあった最適なスキルができることであり、そこで重要になるのが入力系です。
 こういう状況だったら、どういうスキルを出すかということをやっていかなければなりません。

 例えば、「ブロックを見てスパイクを打つ」ということがあります。レベルの高い選手にとっては、当たり前のことが、ブロックを見て打つというプレーをやってきていない選手にとっては、とても難しいスキルになるのです。
 ビジュアルトレーニングの目的というのは、状況を見て、最適なスキルを発揮するためのものだと考えてください。




FIVBwebサイトより参考画像」

【ビジュアルトレーニングの構成】
@認知トレーニング
 「見る」ことに意識を向けさせるためのトレーニングです。細かくいえば、動くものをはっきり見る「動体視力」、瞬間的にものをパッと見る「瞬間視」、眼をすばやく動かす「眼球運動」のトレーニングなどです。これは、どこでもできます。自宅でも体育館でも部室でもできます。
 レベルアップのポイントは、みんな0で行うことです。見る能力なんて差がないと思っていたけど、みんなで行うと、速さとか正確性とか、明らかに差があることに気がつきます。記録をとり、違いがあることを認識させる、それが最初の効果です。また、記録をとり続けることで、認知能力は向上します。向上を意識させることも大事な効果です。
 1から20までの数字を順番にタッチしていくというトレーニングがあります。1から20までタッチして、今度は20から1まで戻ってくるというものですが、早い選手で30秒くらい、遅い選手では1分以上かかるものもいます。この差は反応の早さととらえられがちですが、全体を見回せる視野の広さというビジュアルの能力の差なのです。




A体力(敏捷性)のトレーニング
 アップトレーニングを「見て、正確に、敏捷に反応する」工夫をいれて行うと良いでしょう。バレーボールにおける反応のほとんどは、目で見て判断して動くというものです。笛など、音で反応させるトレーニングよりも、見て反応するトレーニングを多く採り入れるべきです。
 不規則にいろいろな方向にバウンドする「Zボール」などをアップトレーニングに採り入れるのもいいでしょう。

「Zボール(ニシ・スポーツ)



Bバレーボールの練習の中で認知特性とリンクした技術練習
 ビジュアル能力を高めるためには、認知トレーニングとか、敏捷性のトレーニングも大切ですが、もっとも大切なのはバレーボールのスキルアップです。バレーボールのスキルアップをはかるためには、バレーボールの練習の中でビジュアルな能力とリンクさせて、高めなければなりません。これがキーポイントになります。
 バレーボールで、見るというスキルは次の二点です。
「ボールから眼を離し、周りを見る(眼球運動・瞬間視)
「ボールを見ながら周りを見る(周辺視)
 ふだんの練習は、目的がないとマンネリ化しがちで、なんとなくこなされ、さあゲームとなりがちです。見ることを意識することで、集中しないと練習自体がこなせない、そういう状況をつくってあげることです。

【トレーニング効果はあるのか?】
 実践したチームで聞くと、プラスの効果ありの反応がほとんどで、マイナスになることはありません。研究報告でも同様です。パフォーマンスがどの程度あがるのかというような効果を数値的に表すのは難しく、選手の内省や動きに注目して、判断するしかありません。
 「周りがよく見えるようになった」「スパイクのコースを考えながら打てるようになった」または、選手の動きが良くなったなどの観察から判断をします。
 今後、多くの若い指導者がいろいろと試行錯誤する中で、その効果を明確にしていって欲しいと考えています。
 いずれにしろ、ビジュアルトレーニングを意識して取り組んでいるチームはまだ少ないと思います。他のチームがやっていないことを練習している、または意識しているということは、選手やチームに必ずプラスになります。

オンザコートクリニック
【指出し対人パス】
・指出しコールパス
 対面パスで相手がパスをする少し前に手で数字を示し、コールしながら行います。

・指出し二択パス
 パサーが出した指がグーならば直接返球、パーならば、直上トスをいれて返球。または、グーならば反転パス、パーならば直接返球等。
・指出し三択パス
 パサーが出した指がグーならば直接返球、パーならば、直上トスをいれて返球、チョキならば反転パス。


【指出し四角パス】
 グーだったら、パスが来た方向に返球、パーだったら、次の方向にパスという二択をさせる。「パサーはグーで自分に返球を指示」

「パサーに返球」

「パサーはパーで隣にパスを指示」

「隣にパス」

【ダブルボール円陣パス】
 常に2個のボールを見ていないとできない。続けるためには、同じ人に同時にボールがいかないようにしなければならない。









【チャンスボール】
 ネット越しに返球されたボールを、アンダーハンドパスで、セッターの動いた位置に返す。セッターは返球ボールが、ネットを越えた頃に動き出すので、パサーは周辺視野でセッターの動きをとらえていなければならない。
 慣れてきたら、セッターの動きにフェイクをいれ、最後まで周辺視でとらえていなければならないようにする。

「セッターはボールがネット通過時に移動」

「周辺視でセッターの動きをとらえる」

【三択サーブレシーブ】
 ネット際両サイドにターゲットになる選手を置き、どちらか片方が手を挙げれば、そちらの方向に、両サイドの選手が二人とも手を挙げたり、どちらもあげなければ、相手コートに返球。


追記:オンザコートクリニックでは、上記以外にも「おっかけレシーブ」「ブロックステップ」「フェイントかスパイク」「ブロックの隙間(すきま)スパイク」「4対4ワンプレーゲーム」「6対6ダブルボールパスゲーム」など、数多くのドリルが紹介された。
 参加者は、これらのドリルを、実際に目の当たりにすることで、具体的にイメージすることが出来たようであった。
 ドリルの詳細は当日の資料としても使われたCPV「コーチング&プレイング・バレーボール」誌上に詳細に説明されている。